海外RPG紹介

海外RPG遍歴・新世紀編

文責:ぴろき

 時代は二十一世紀を迎えました。かつて近未来フィクションの舞台として扱われていた年代が現実になったかと思うとなかなか感慨深いものがありますが、やはり宇宙旅行やファースト・コンタクトは映画や小説の中だけのものです。イマジネーションの活躍する幅はまだまだ多くありますね。

 さて、そんな四方山話はともかくとして、本題のRPGの話に移ります。2001年になってもあいかわらずRPGの本場はアメリカを中心とした欧米諸国であることにかわりはありません。ただ、北米でも少々業界事情は厳しいようで、いろいろな合理化策やブランド会社の合併が世紀末に追い込みのように行われました。有名なRPGシリーズのいくつかも展開ストップを余儀なくされるなど、必ずしもファンにとって良好な状態とはいえないようです。

 ここでは、そうした事情も多少踏まえながら、現在の海外RPG業界の動向についてざっと見渡してみることにします。もちろん、草の根レベルまで業界の範囲はとても網羅できないほど広いですから、ここではあくまで筆者が興味を持った企業や作品だけにとどまっていることをあらかじめご了承ください。


激動の二大陣営

 1990年代の北米RPG界の動きは、二つの大きな潮流があったといえます。ひとつは元祖RPG「Advanced Dungeons & Dragons」、そしてもうひとつがゴシックパンクホラー「World of Darkness」シリーズです。前者はダンジョン潜りから始まった方向性を究極まで突き詰め、長年をかけて築き上げた多彩な架空世界を舞台に、RPGシェアのほとんどを握ってきました。後者は新たなRPGの方向性として、より即興演劇に近いプレイを打ち出して、その独特のシャープな世界観で本来のRPGファン以外の層からの支持を勝ち得たのです。

 世紀が変わるのを境に、この二大巨頭はいずれも大きな転換点を迎えました。しかし今後ともこれらの作品群がRPG界を引っ張っていくのは間違いないでしょう。


Wizards of the Coast

 Magic:The Gatheringで有名な、言わずと知れた超大物。

 米国RPG界の大御所TSR社(D&Dの発売元)を吸収合併した後、海の向こうの主導権はWizards of the Coast社に移りました。それだけでも大事件だったわけですけど、それに飽き足らなかったのか、WotC社はこれ以降もスタートレックRPGを出していたLast Unicorn Games社を買い取ったり、昔West End Games(TORG出していたとこ。倒産)から出ていたスターウォーズRPGの版権を買い取ったりして、RPG界での事業拡大に精を出しました。

 で、2000年夏に、超大本命「Dungeons & Dragons 3rd Edition」を発売しました。当然バカ売れなわけで、ついでにこのゲームの根幹である「d20システム」なるルール体系をフリーライセンスにするという昔のTSRだったら絶対やんなかったであろうことを実行するなど、新展開に意気込み充分といったところでした。

 が、どうも親会社のHasbroの経営不振とかが響いたらしくて、今年からはスタートレックやAlternity(汎用SFーRPG)のラインをストップして、D&Dとスターウォーズだけに展開を縮小すると発表。業界不況の波がとうとう本家にまで……と各方面が震撼しているとかいないとか。

Dungeons & Dragons 3rd Edition

 文句無しに昨年最大の話題作。

 元祖にして最大の勢力を誇るファンタジーRPG「Dungeons & Dragons」の正統後継者で、位置づけとしては二十年以上にもわたって米国RPG界をリードし続け、数百(誇張ではない)冊のサプリメントを擁する怪物的RPG「Advanced Dungeons & Dragons」の第3版に相当します。これ以前は「D&D」と「AD&D」が、前者は初心者向け、後者は本格派向け、という別々の方向性2本のラインとして長年展開していましたが、この「D&D3e」(と略す)の発売で、とうとう1本に統合されました。

 四半世紀で蓄積されたノウハウをすべて投入した決定版の感があり、非常に完成度が高いことで絶賛を浴びています。それまで無数のサプリメントに散らばっていたAD&Dのルールをまとめてシェイプアップしたことで、ベテランプレイヤーの教導を受けなければ事実上入門不可能だったAD&Dの門戸を開放したとも言えるでしょう。

 現在は、AD&D最初のオフィシャルワールド「グレイホーク」(Greyhawk)を舞台としたサプリメント展開が始まっています。要望が多いと聞く「フォーゴトン・レルム」(Forgotten Realm)世界の展開も遠からず始まるのではないでしょうか。

Star Wars Role Playing Game

 一時期の過熱ぶりもおさまった感じの「スターウォーズ」を題材にしたSF活劇RPG。

 「TORG」などの異色活劇物RPGを出していたWest End Gamesが消えた後、WotCが版権を買い取りました。舞台は言わずと知れたスターウォーズ宇宙なわけですが、小説版やファントム・メナスの設定も盛り込んだものになっています。問題は、上で触れた「d20システム」を採用していることで、かつて評判がよかったWEG社版の旧スターウォーズRPGシステムが失われてしまっていることです。これはファンの間でもかなり賛否両論らしいです。やっぱ「Lv.17ジェダイナイト」はちょっとねぇ。個人的には何でもかんでもひとつのシステムでやってしまおうという考え方は好きではないんですが……。


White Wolf Game Studio

 ファン層の違いから「D&D」と双璧をなすといわれるWhite Wolf社は、現代ホラーRPGシリーズ「World of Darkness」をひっさげて精力的な展開を続行しています。代表作である「Vampire:The Masquerade」は2000年夏にようやっと日本語版が発売され、これで日本国内での認知度も少しは高まるかと期待もしていたりします。

 昨今の展開の特徴は、作品間のクロスオーバーの激増と、それまで「近い将来起こる」ということで詳しい言及を避けていたWoD世界の「終末」について語ったサプリメントが1998年を境に大量に出始めたことです。“歴史の針が動き出した”といわれるこの展開にはファンの間でも意見が割れていて、従来の静かな暗黒の現代世界を愛していた人にとっては少々ツラいものになっているようです(かくいう私もそうです)。加えて、新版から入った人に、こうした激しい展開が障害にならなければよいのですが。

Vampire:The Masquerade

 昨年夏に日本語版が発売され、年末には最初のサプリメントも出た「ヴァンパイア:ザ・マスカレード」は、現在もWW社のフラッグシップです。第2版改訂版(日本語版の元)の発売後、1998年から始まった一連の「終末の夜」に関する事件設定は、いろいろな意味でファンを驚愕させました。既存の大勢力の破滅や、著名人物の死、新設定のオンパレードなどなど……少々行き過ぎかなと思うくらいに「Vampire」の世界は揺動しています。

Werewolf:The Apocalypse

 2001年に日本語版の発売が予定されているバイオレンス・ホラー。シリーズ中最も活劇要素の強い作品で、基本がスラッシュ&ハック(切った張った)という“わかりやすい”ゲームです。ただ、ここでも黙示録の時代に向かってドラスティックな変化がいくつも起きていて、2000年末に行われた第2版から第2版改訂版への移行で、設定のかなり大きな部分が変更を受けています。

Mage:The Ascension

 奇抜な設定で絶賛を受けた現代アクションRPG。これまた第2版改訂版への移行を果たしました。新デザイナーJustin Achilli氏によって、既存の設定のほとんどを切り捨てるといってもよい変更が加えられたため、ファンの間でその是非をめぐって大激論が現在も戦わされています。

Wraith:The Oblivion

 現代の幽霊を演じるというこれまた奇抜な設定のホラーRPG。展開は終了してしまいましたが、1998年以降WoD世界全体で起こった大激震の原因はこの作品にあります。最後のサプリメント「End of Empire」で設定された冥界の政変が、すべての次元に大きな影響を及ぼしたのが始まりでした。この政変によって「Wraith」の背景設定はほぼ全壊しました。現在のところ、第2版改訂版に移行する予定はないようです。ひとつのキャラクターを二人で演じるという非常に斬新なシステムを擁していたゲームだけに、残念でなりません。

Changeling:The Dreaming

 「Changeling」の展開は他の作品にくらべても遅いのですが、これもまた時代の激変から無縁ではありませんでした。膨大な悪夢の存在が世界に流れ込んできたことで、妖精たちの物語にも変化が起きています。まだ第2版改訂版に移行していないので、他の三作品ほどに劇的な変動はありません。長らく半ば見捨てられた存在でしたが、2001年2月にようやく新作サプリメント「War in Concordia」が出てファンが歓喜しています。

Hunter:The Reckoning

 WoD世界全体での新展開が始まってから発売された新作品。一介の人間がある日突然、わけもわからず化け物の実在を悟り、彼らに立ち向かう力を手にしたら……ということをテーマとしたホラーRPGで、仲間以外の誰からも理解されない孤独な魔物狩人たちの悲劇的な生き様を描くのが主眼です。当然、他作品とのクロスオーバーが前提となっており、それまでのWoD展開の総決算的色合いの強いゲームです。


あの人は今……

 RPGの誕生以来二十有余年、かつて勢威を誇ったブランドや作品も、栄枯盛衰の運命をまぬがれることはできないのか、ごく少数のものをのぞけば消えていきました。ここでは古参ブランドの現状を概観します。


Chaosium Inc.

 いまや「クトゥルフの呼び声」一本となってしまった老舗ブランド。クトゥルフ関係ならば小説やら資料集やらをたくさん出しているのですが、出版ペースはお世辞にも速いとはいえず、正直、かなり寒い状況にあります。ケイオシアムの基幹システムである「ベーシック・ロールプレイング」通称「d100システム」も、今や事実上、「クトゥルフの呼び声」だけになってしまいました。かけて加えて、このクトゥルフ自体も第5版以降、マイナーチェンジと旧版データのとりまとめ以上の展開ができずにいます。頼みの綱はサードパーティのサプリメントだけ、というのはファンとして辛い……。

 昨年、「Dragonlords of Melnibone」という名の作品の発売予定が発表されました。これは「ストームブリンガー」「エルリック!」と続いてきたムアコック・ファンタジーRPGの後継者なわけですが、こともあろうに「D&D」のd20システムライセンスで作られるとのこと。今年春には発売されることになってますが、これもかなりトホホなニュースです。とうとうD&Dの軍門に下るとは……。


Steve Jackson Games

 完全汎用RPGシステム「GURPS」をひっさげて、あらゆるジャンルを網羅しようとしているSTJ社の野心的な試みは、現在もやむことなく続けられています。決して主流にはなれていませんが、オリジナル設定をプレイしたいと思うファン層に根強い支持があります。日本語版も出ていることから、さまざまなオリジナル作品が同人誌やウェブ上で展開されていることも特徴です。また、去年から古典SF-RPG「Traveller」のGURPS版を精力的に発表し始めており、古参ファンを惹きつけています。

 この他、STJ社はフランス製のオカルトアクション「In Nomine」などのRPGや、ボードゲームなども発売しており、古参の中でも堅調な走りを見せています。


FASA

 傑作サイバーパンクRPG「Shadowrun」の第3版の展開が始まったのも束の間、2001年初頭、FASAは突然、RPGからの撤退を発表して衝撃を走らせました。コンピュータゲームと連動して根強いファンを持つロボットSLG「Battletech」の路線は継続するようですが、ファンタジーRPG「EARTHDAWN」の失敗なども響いたようです。今後、FASAの発表したRPGのラインは売却されて別会社から出ることになりそうです。すでにLiving Games Inc.のもとで展開が再開された「EARTHDAWN」とともに、「Shadowrun」も今後の復活を望みたいところです。


灰燼よりの帰還

 衰退する古参ブランドがある一方で、不死鳥のように復活を遂げる古典RPGもあります。ここではその中でも熱烈なファンを擁する作品について見てみましょう。


Hero Wars(Issaries Inc.)

 熱狂的な支持層を持つ幻想神話世界グローランサを舞台とした古典名作RPG「ルーンクエスト」の正統後継者。先代は1996年を境に展開が完全にストップしてしまい、ファン活動のみに移行していましたが、デザイナーのグレッグ・スタフォード氏がルーンクエスト・ファンから資金を募るという奇想天外な方法で新会社「Issaries Inc.」を設立したことで、新しいグローランサRPG製作プロジェクトが始動しました。そして数年のときを経て、昨年、「Hero Wars」が登場しました。

 「ルーンクエスト」のリアル指向から、シネマティックで抽象的な方向性にシステムを大転換させ、それまで非常に断片的だったグローランサの情報をまとめるというドラスティックな展開がその特徴です。このため、旧来のファンの中にはついていけない人も結構出ている様子。特に極めて抽象化・単純化されたルールシステムの実際の運用法については、メーリングリストを中心に今も活発な議論が戦わされています。

 2001年は、根幹となるサプリメントが数冊予定されており、この通りに行けば今年の終わりにはプレイ環境が完全にととのうことになるでしょう。


EARTHDAWN(Living Room Games Inc.

 「D&D」の対抗馬たらんとして登場した異色ファンタジーRPG。しかし結局製作元のFASA社は売り上げ不振からこのシリーズを放棄しました。日本でもグループSNEが中心となって数冊が翻訳されたものの、そこで展開は止まっています。しかし、「EARTHDAWN」の根強いファンによって「Living Room Games Inc.」という会社が創立され、ついに発表されなかったサプリメントの発売や、第2版の製作を精力的に行い始めています。「Hero Wars」とならんで、ファンがゲームを生き返らせた業績のひとつだといえるのではないでしょうか。

 現在、バーセイヴ地方を舞台にした大戦を扱ったサプリメントが展開されています。


Traveller(Steve Jackson Games

 かつてはGames Designer's Workshop社から出ていた傑作古典スペースオペラRPG「Traveller」は、GDWの撤退、その後を引き継いだ会社の倒産といった数々の受難を経ながら、再びよみがえりを果たしました。今度はSTJ社のGURPSシステムにのっとった形で。その舞台となるのは、「メガトラベラー」のパラレルワールド、すなわち、皇帝が暗殺されず、帝国が反乱の中で分裂しなかった宇宙です。そこでは古式ゆかしいトラベラーの冒険が行えるのです。あまりにも激しい設定の変更には以前から批判が多かったようですが、「GURPS:Traveller」シリーズではこうした批判派をも取り込もうという意図がうかがえます。実際、旧トラベラーでは詳しく設定されなかったさまざまなトラベラー宇宙の要素についても、サプリメントが続々と出されて補完が行われています。

 堅固な古参ファン層と根強いGURPS層に支えられて、「Traveller」は新世紀にも生き続けようとしています。


異色チーム

 以上のようないわゆる有名ブランドの他にも、新進気鋭のRPG企業は欧米に数多く生まれてきました。二十一世紀の新しい業界の旗手として今後の発展が期待されます。ここではそんな新鋭ブランドのいくつかをピックアップしてみました。


Dream Pod 9

 カナダの企業で、ジャパニメーションをモチーフにしたロボットRPG「Jovian Chronicles」と「Heavy Gear」で一躍人気ブランドとして表舞台に登場しました。特に「Heavy Gear」はコンピュータゲームとも連動して爆発的な人気を博しており、現在も非常に速いペースで展開が行われています。また、ポストホロコーストの世界を舞台とした異色ファンタジーRPG「Tribe 8」も、ゆっくりと展開を進めており、2000年には大きな戦争が舞台世界に起きて、それに関連するサプリメントが出されつつあります。また、フィギュアを用いるSLGボードゲームも発表しており、2000年には第二次大戦に巨大二足歩行兵器の登場した架空戦記SLG「Gear Krieg」を発売しました。

 RPG業界最大の有望株のひとつです。


Alderac Entertainments

 戦国オリエンタルRPG「Legend of Five Rings」と大航海時代な海洋冒険RPG「7th Sea」の二本立てで走るこの会社は、トレーディングカードと完全に連動してこれらのRPGを展開しています。どちらもちょっと(かなり?)変わった架空歴史もので、特にLoFRは日本人にとってはヘンテコリンな感触の時代劇RPGだといえるでしょう。いずれもコアなファン層をすでに獲得しており、第2版の発表などが行われて盛況です。


Eden Games

 宇宙人と渡り合う現代の政府秘密機関のエージェントをやる奇抜なRPG「Conspiracy X」を中心としてRPGやカードゲームを展開しているEden社は、非常にマニアックなブランドの代表格です。あまり知名度はないのですが、ファンには絶大な人気を誇っており、「Consporacy X」には次々とヘンな宇宙人が登場する始末です。この他、他会社から買い取った二、三のRPGも継続展開していますが、いずれもオカルト系。怪しさ大爆発のブランドといえるでしょう。


Pinnacle Entertainments

 ホラー西部劇RPG「Deadlands」で名をはせたPinnacle社は、同じ世界を舞台にしたポストホロコースト現代ホラー「Hell on Earth」シリーズも始動して、現在も活発な展開を見せています。数少ない西部劇を舞台にしたRPGの中でもトップクラスの完成度を誇る「Deadlands」は日本でも支持者が多いようです。


 さて、まだまだたくさんのブランドが欧米のRPG業界には存在しますが、今回はここまでにしておきましょう。国産RPGもわりと速いペースで展開されるようになってきていますが、英語という障害さえ除けばやはり多彩さでいって欧米にはまだまだ劣っています。RPGの多様性を目の当たりにしたいならば、ぜひこうした海外RPGにも触れてみてほしいと思います。

 それでは。



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